取り寄せ不可
自然現象の理解のためには,自然科学の知識の習得のみならず,実験を通じて自然現象を直接観察することが重要である.知識と観察との関連性を深く考察することにより,自然を科学的に思考できるようになる.科学的思考により新たな知識を創出し,発見・発明に導かれる.この知の循環において,実験は欠かせないものとなっている.大学初学年次において,化学の講義科目と実験科目が課せられていることは,こうした自然現象の知の循環を体験することで科学的思考スキルを身につけることが必要となっているためである.特に,物質を取り扱う化学・物理・材料・電気等の理工系学生および生命を取り扱う生物・医学・薬学等の医薬系学生にとっては,科学的思考スキルのみならず実験の安全・倫理の基礎を身につけておくことが要求されている.
大阪大学では,長年のあいだ化学実験に関する実験書を出版してきた.1970年に『基礎化学実験』(阪大学教養部化学教室編,1970)を出版し,以降約20年間に渡り第5版まで改訂を重ねてきた.しかし,年月の経過に伴い内容の見直しを行い,1992年に『基礎化学実験法』(大阪大学化学教育研究会編,1992)を発行するに至った.1994年の教養部改組に伴い,化学教室は解体されたが,その化学教育の精神を受け継いだのが化学教育研究会であった.大阪大学は2004年4月に国立大学法人へと移行したが,大学初年次における化学実験の重要性は益々高まっている.その後,約30年間近くに渡り,時代に合わせた内容修正を繰り返し,2019年には第29刷を数えることとなった.ところが,大阪大学では四学期制が導入されることで,2019年度から化学実験はセメスター科目からターム科目へと様変わりをすることとなった.初等中等教育でも探究学習が導入されることで,探究という名の下での実験教育が既に始まっている.この時代の変化に合わせるべく,本書『新基礎化学実験法』を出版することとなった.
本書は,大阪大学の化学教育の蓄積をベースとしており,『基礎化学実験』および『基礎化学実験法』の流れを汲むものとなっている.ターム科目としての実施に合わせて,掲載する実験テーマは厳選することとした.さらに,理学部1年生対象としていた自然科学実験のテキスト『自然科学実験1』(大阪大学理学部自然科学実験編集委員会編,2006)から2テーマ(ステアリン酸の単分子膜,せっけんの合成)を新たに採用した.また,用いる実験器具・装置・試薬や実験操作を現状と合うように一部修正した.化学実験の安全性への配慮と注意に関しては,以前のものと同様に十分なスペースを割いた.過去50年間の蓄積を現在の化学教育の理念に適合させたものが本書であると言える.
よく利用するジャンルを設定できます。
「+」ボタンからジャンル(検索条件)を絞って検索してください。
表示の並び替えができます。