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勒那摩提訳『究竟一乗宝性論』を主要な柱とし、漢訳『宝性論』とその影響を受けた文献に見える「如来蔵」「真如」「種姓」という重要概念を検討することにより、五世紀から七世紀までの東アジア仏教における如来蔵思想の受容と展開を解明した労作。
第一章では、漢訳『宝性論』の思想的背景を明らかにするため、南北朝仏教における『菩薩地持経』の受容と、曇無讖訳『涅槃経』の仏性と種性をめぐる問題点を取り上げ、それが漢訳『宝性論』に与えた影響を検討する。また、漢訳『宝性論』に対する人性論の影響を探るため、皇侃『論語義疏』を取り上げる。最後に、『地持経』と『宝性論』が漢訳されて以降の北朝仏教における如来蔵思想の受容と展開を解明する準備作業として、『勝鬘経』の注釈書である敦煌写本S.6388とS.2660を検討する。
第二章では、『楞伽経』の受容について考察する。菩提流支訳『入楞伽経』は『宝性論』とほぼ同時に漢訳されており、『入楞伽経』とその影響を検討することで漢訳『宝性論』受容の解明に役立つと思われる。『楞伽経』は地論学派と摂論学派の如来蔵説と心識説に影響を与えており、特に求那跋陀羅訳と菩提流支訳は中国仏教思想史への影響力を持つ。
第三章では、梵文との対照を通じて漢訳『宝性論』の翻訳事情について検討し、同時代の如来蔵・真如・種姓説を調査する。
第四章では、漢訳『宝性論』が南北朝隋唐の中国仏教に与えた影響と重要性を明らかにする。『宝性論』には漢文の注釈書がほとんど残されていないため、重要視されていなかったという見解が学界の主流である。しかし、真諦訳書は『宝性論』、特にその梵文の内容を縦横に利用している。また、『宝性論』は『大乗起信論』にも影響を与えており、吉蔵、法蔵、三階教は『宝性論』とその影響を受けて成立した『仏性論』を依用していることが明らかになる。
第五章では、中国南北朝期における転依と真如について考察する。「真如所縁縁種子」と「真如智」をめぐって南北朝から唐初期にかけての真如説を窺い、敦煌出土の地論・摂論章疏によって地論学派と摂論学派の真如説の一側面を考察する。
第六章では、まず新羅元暁の著作における『宝性論』の依用と解釈に絞り、種姓説を検討する。次に、南北朝・隋唐仏教の影響を強く受けた奈良朝仏教をとりあげ、東大寺寿霊『五教章指事』と興福寺智憬『起信唯識同異章』における『宝性論』の依用について検討する。
本書を通じて、『究竟一乗宝性論』の東アジア仏教における想像以上の影響力がここに明らかとなる。
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