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未知なる国、異国「琉球」を侵略する、架空の軍記〈薩琉軍記〉。〈薩琉軍記〉とは、慶長十四年(一六〇九)の琉球侵攻を描いた軍記テキスト群である。実際には起きていない合戦を作りだし、様々な武将たちの活躍を創出した特異な軍記だ。本書はその〈薩琉軍記〉を研究する初の書である。
異国と戦った者たちの物語はなぜ必要とされたのか。異国合戦軍記が担った役割は何だったのか。その成立、諸本の展開構造、享受の実態から、明らかにしていく。国家の異国観が、大衆へ浸透していく様相を解明するべく、日本文学史に異国合戦軍記を位置づけようとする野心的な書。本書には、東アジアにおける日本の視座が問われている昨今、時代やジャンルを超越し取り組むべきテーマが凝縮されているといっても過言ではない。文学研究者のみならず、歴史、思想史にも有益な書である。
【〈薩琉軍記〉の物語が生長し、展開していく背景には、東アジアにおける日本の対外情勢の緊迫化があり、異国との戦さ幻想の肥大化がある。東アジアにおける日本の地位を確立する上でも、異国と戦った者たちの物語が必要とされたのである。いわば物語が語り起こされることにより、戦さの正当化がなされ、国家神話へと生長していくわけであり、時代の転換期における琉球侵攻を扱った軍記〈薩琉軍記〉は、中世から近世への言説の変遷をみる上でも重要視されるべきテキストであり、近世中、後期における時代認識を考察するための恰好の素材となりうるのである。】
「終章 琉球から朝鮮・天草へ―〈朝鮮軍記〉〈天草軍記〉への視座―」より
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