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◆自伝的エッセイ集
瀬戸内海に点在する島のひとつ、生口島で生まれ多感な幼少期を過ごした著者の自伝的エッセイ。生活の貧しさにめげず勉学にいそしむ旭少年の夢と挫折、出会いと別れを瑞々しい筆致で瀬戸内の自然の豊かさを織り交ぜながら情感豊かに綴ってゆく。
戦後日本の復興期を背景に島に暮らす人々の生活が生き生きと浮き彫りにされる。
島を出る夢見し頃の夜光虫 旭
◆「温洲みかん」より
叔母の家に、上の姉が家事手伝いとして行ったのは、中学を出るとすぐのことであった。いわゆる「口減らし」であるが、姉は友だちには「叔母の家で和裁を習わしてもらえるんよ」とうれしそうに言っていたそうである。姉は十五歳。その時、私は五歳。かすかにではあるが船で旅立つ姉を見送った記憶がある。私は五人兄弟の末っ子である。長兄とは十三歳、長姉とは十歳、次兄とは七歳、次姉とは三歳の年の差があった。
姉を見送ったその頃から後は、私にとって、大長の温州みかんは、お正月のおやつということ以上に、この姉を思う形見のような意味を持つようになった。姉もほかの兄たち同様に、盆と正月と、それぞれ三日間ずつくらいしか帰郷できなかった。歳が離れているので一緒に遊んだことはないが、私はことのほかこの長姉に可愛がられた。私もこの姉が大好きであった。美人ではないが、色白でふっくらと丸顔、瞳は漆黒。生真面目で几帳面でやさしい性格の人であった。名前を幸子という。しかし、姉は二十五歳の春、病いで亡くなった。私は十五歳、高校一年入学直後の時であった。私には姉の生涯がその名のとおりの幸せなものであったとは到底思えず、気の毒で哀れで、ながい間、思い出すたび、つらく悲しくやりきれなかった。
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