本書『アートエデュケーション思考』には、「Dr.宮脇理88歳と併走する論考・エッセイ集」という副題が付いています。「併走」というこの言葉には、めでたく米寿を迎えられた宮脇 理先生の思想が反映されています。それは、出版という行為をジェネレーションの垣根を越えた研究者が出逢う場として位置づけ、自らのポジションを相対化すべきだという運動体の思考です。
世代の垣根を越えたつながりを求めるこうしたお考えは、1988年のご著書『感性による教育』に早くも登場します。手短に引用してみましょう。
「[個々の人間が]共通の土俵に上るためには、お互いの相違を越えた共通理解の方法と経験が必要なわけです。」さらに、「世代間の差となると規模は大きくなり、関係は顕在的に力学的な様相をもって、社会問題にまで発展する」のであり、ジェネレーションが離れた「両者のコミュニケーションをどういう方法によって解決し得るかなどの課題」は個人間の軋轢を解決するよりも、いっそう切実だと宮脇先生は指摘しています。(178頁)
したがって、本書の「併走」とは、世代を異にする人々が共にアートエデュケーションというものが目指す地点を確認し合い、励まし合いながら、研究者個々人が、その本分を全うする思考の旅路なのかもしれません。
しかし同時に、宮脇先生のご業績に想いを巡らすとき、「併走」とは異なる強烈なイメージに捕らわれます。それは、疾駆する馬に跨がり、敵陣を中央突破する騎士の姿です。この分野のパイオニアであり続ける宮脇先生のお姿が、そのようなイメージを私たちに連想させるのです。
本書は、監修者の宮脇先生ご自身の文章と、先生を慕う数多くの人々の小論文・エッセイによって構成されています。本書の編集にあたっては、宮脇先生のご指導のもと、構想段階から編集実務に至るまでを一貫して編著者代表の佐藤が取りまとめ、他の編著者が随時作業に加わりながら合議の上で進めてまいりました。
編著者一同、監修をお引き受け頂いた宮脇 理先生と、玉稿をお寄せ頂いた著者の皆様に厚く御礼を申し上げます。
(まえがきより)
よく利用するジャンルを設定できます。
「+」ボタンからジャンル(検索条件)を絞って検索してください。
表示の並び替えができます。