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他者を自分と同一化するいちばん単純な手段は、何をおいてもまず、他者を食べてしまうことである。――「われらみな食人種」より
現代思想に構造主義を持ち込み、知的光景を一新した人類学者レヴィ=ストロースが、晩年にイタリアの日刊紙『ラ・レプブリカ』に連載した時評エッセイ集。
時事ニュースを構造人類学による大胆な連想と緻密な論理で掘り下げ、パズルを解くように描き出す。
巻頭には、実質的論壇デビューを果たした論考「火あぶりにされたサンタクロース」を収録。
80年以上にわたる知的営為をエッセンスの形で読める、最良のレヴィ=ストロース入門。
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本書はレヴィ=ストロースの没後編集の時評集である。イタリア有数の発行部数を誇る日刊紙『ラ・レプブリカ』に、1989年から2000年にかけて概ね年2回のペースで書き継がれた16の文章と、1952年の発表後にどの論集にも採録されることのなかった「火あぶりにされたサンタクロース」とが一つに編まれ、オランデールが監修するスイユ社「21世紀ライブラリー」シリーズの一冊として刊行された。
本書の各論考はレヴィ=ストロースのフランスでの学術的キャリア――1949年の『親族の基本構造』と前後して始まり、1992年の『大山猫の物語』で締めくくられる――を挟む両端の時期に書かれたものである。一般の読者を想定しながら、距離や時代を隔てた他者理解を目指す人類学の営為がどのような物の見方を提供し、具体的な社会的役割を果たせるかを余さず伝えようというモチーフが貫かれている。[…]
『ラ・レプブリカ』紙に連載された16の論考も、世論を賑わせた印象的な出来事や、偏愛する画家や工芸品の展覧会、人類学に限らない学術論文まで、いずれも着想源はさまざまで、ことによると雑多な印象も受ける。時評というにはやや意表を突いた切り口で始まり、そこに自身の主な研究対象であった南北アメリカ神話や親族構造、造形表現を中心に、時代も地域も異なるさまざまな話題がコラージュされ、当初の主題を掘り下げ、異化する。扱う主題も多彩だが、著者のこうした手つきはどの論考でも変わらない。[…]
人類学にとどまらず当時最新の研究成果にも幅広く目配りして進められる晩年のレヴィ=ストロースの繊細で大胆な論の運びには、思わずにやりとさせられる。文化相対主義や多文化主義といった安易・安直な形容を許さない、世界を見る視線や世界に対する構えが印象的に浮かび上がってくる。
本書はその意味で、著者自身による理想的な“レヴィ=ストロース入門”と言えなくもない。本格的な著作と向き合う際に必要とされる詳細な用語理解なしに、わたしたちの記憶にもまだ新しい出来事を起点にして、レヴィ=ストロースの世界のひろがりを手ぶらで散策するには、本書に代わるものはないのではないだろうか。
(訳者あとがきより)
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