鬼才アラン・ムーアによるグラフィック・ノベルの傑作。ムーアが自作のなかでも特に達成度の高い一作と誇り、『ウォッチメン』と並んで代表作とされる作品である。
いわゆる「切り裂きジャック」による猟奇的連続殺人事件が本作のモチーフ。スラム街の住人から女王まで、すべての階層に不安とパラノイアが充満するヴィクトリア朝末期の社会が再現され、そこに、数多の象徴が生み出す複雑な磁場がはりめぐらされている。殺人鬼はあたかも、自壊しはじめた世界が生んだ奇怪なドン・キホーテ。底辺を生きる女性たちに襲いかかる。
ノンフィクションを元に編み上げた「スイス時計のように」精巧なプロットに、ムーアの本領たるダイナミックな構成力と世界観・人間観が活きている。キャンベルの作画との絶妙なコラボレーションにより、狂気の犯人しか知らないはずの場面までが、まさに圧巻の幻視力をもって描き出される。巻を閉じた後も読者の脳裏に、陰惨な世紀末ロンドンの記憶が焼きついているだろう。
巻末には補遺として、各ページの註解と、切り裂きジャックをめぐる言説をテーマにした短編が付録されている。各コマに埋め込まれた仕掛け、サイド・ストーリーを味わい尽くす再読、再再読の愉しみまでが、本作には織り込まれている。[新装合本]
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