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大正末から昭和初期にかけて一世を風靡した芸術写真は、福原信三、福原路草などで広く知られるが、塩谷定好はその草分け的存在であり、同郷の植田正治にとっては「神様のような存在」であった。
塩谷は、大正期に大人気となったポケットに収まる小さなカメラ・ベス単(ヴェスト・ポケット・コダック)を手に、独特な煙るようなソフトフォーカスの作品を生み出し、独自の手法で美しい印画を作り上げて、写真界で高い評価を受けていた。
本書は、遺族の手で大切に保管されてきた、極めて保存状態のいいプリントの中から選りすぐった、ベストセレクションとして纏める。
芸術写真の人気が再び高まる昨今において、塩谷作品の高質で品格のある美の世界は、時代を経てもなおモダンで、普遍の魅力を放つ。
また、プリントと共に大切に保管されていた厖大な量の塩谷資料(自身が立ち上げたベストクラブ(後に写研会)を母体として、生涯ほとんど休まず精力的に活動した記録、写真雑誌など)を反映。
その中には戦期に撮影がままならなくなる中、郷里赤碕から戦地に向かった若者へ向けて故郷の写真を送るなど、作品からも伺える慈愛に満ちた行動の記録なども残されている。
人間・塩谷定好の生涯、精神、写真家としての活動の全貌、ひいては日本写真の歴史を知る上でも貴重な一冊となる。
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