【本書の内容について】
水理学では一般の古典物理学と同じように,静止している水については力の釣合い,動いている水については質量,運動量,エネルギーの三つの保存則を用いて問題を解くことになります。ただし,エネルギーの保存則については運動量の保存則を場所的に積分して得られる力学的なエネルギーの保存則であるベルヌイの定理を使います。つまり,運動量の保存則と力学的エネルギーの保存則はたがいに独立ではないために,連立することはできません。したがって,問題を解く際には,① 質量の保存則と運動量の保存則を連立して解くか,あるいは ② 質量の保存則と力学的エネルギーの保存則を連立して解くかの二者択一となります。水理学ではパイプ(管水路)を使って必要なところに水を輸送したり(第5章),河川(開水路)の水の流れをどのように制御するか(第6章)などが重要なテーマとなりますので,丁寧な記述を心がけています。
水理学は古典力学(ニュートン力学)の応用分野ですので,古典力学パラダイムの指定する三つの過程を踏んで,論証を進めていきます。(1)水理現象を詳細に観察して,その挙動を数式で表現しようとします。その際,時間的あるいは場所的な変化量に着目するため,数式は流速などの物理量を時間的あるいは 場所的に微分した微分方程式になります。(2)微分方程式の解を求めます。その方程式が連立する複数の偏微分方程式系で表される場合には,解を求めるのは容易ではなく,仮定をおいて線型化したり,摂動法などの手法を用いて解を求めることになります。その際,数学的には複数の解がある中で,物理的な考察によって解を選択していくことが必要になります。(3)求めた解が現象をうまく説明しているかを水理実験によって確かめます。多くの大学では水理実験が講義科目のほかに設けられていると思います。一方で水理学を深く理解するには問題を解くことが欠かせません。本書では演習問題をたくさん用意して,その詳細な解答を巻末に掲載しています。本文中で記述しきれない演習問題解答のためのプログラムや水理現象の動画,カラー写真などは,別途Web上に掲載していますので適宜参照してください。
【著者からのメッセージ】
皆さんが水理学を学ぶことを怠れば,将来,何が起こるでしょうか。数十年の時を経て社会の構成員の世代交代が生じますが,そのときに強力な台風が日本列島を襲ったとしたら,誰がどのようにして高潮・高波から沿岸の地域社会を守るのでしょうか。あるいは大雨の際に河川が増水し,堤防を超えて水が氾濫したら,どうするのでしょうか。もし水理学を修めた技術者がいなければ,こうした災害時に対処したり防災策を提案したりする技術者が誰もいなくなってしまうことになります。このような時代が来ないように,社会を支える技術者を目指す皆さんには,是非とも水理学をしっかりと勉強して,専門家になってほしいと思います。これから皆さんがそのための努力を重ねていく上で,本書がその助けになることを願っています。
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