あの子の影は黒いチビ猫

あの子の影は黒いチビ猫

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出版社
書肆侃侃房
著者名
小林あき
価格
2,750円(本体2,500円+税)
発行年月
2019年8月
判型
A4変
ISBN
9784863853751

猫電話



  ∞

紅葉で

真っ赤な外から

もどるのは大きな黒猫

  ∞

キッチンに立つ二本の足を

クネクネとめぐり

無限大の記号をえがき

  ∞

猫は

ダイヤル式の

電話機になる

  ∞

それを両手でもちあげる

胸のところで

リンリンと呼び出し音がなる

  ∞

シッポであった

受話器を耳にあてる

おぼえのある声

  ∞

「もしもし

書物庫を『魂の病院』という

修道院はそちらですか」

  ∞

答えるまえに

あいてが

番号ちがいに気づく

  ∞

切れた会話で思いだす

(少女のころの二行詩

…あの子の影は

 黒いチビ猫…)

  ∞

タイトルは『星月夜』

きっと

今夜は星がきれい

  ∞

ケトルがゆげをだす

  ∞

床におく黒電話

  ∞

姿のもどった猫が

のびをする







ラジオ放送の朗読番組、小川未明や宮澤賢治の童謡に耳を傾け、新聞の文化面の記事からは、おとなのさまざまな芸術運動を知った少女が、絵を描きながら過ごした日々。半世紀も前の少女時代からの作品に、心の軌跡をたどる詩を添えた、やさしい詩画集。

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