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河野夕夏は絶望していた。
急性の脳腫瘍で倒れて入院し、医師の態度から最悪の結果を察してしまったのだ……。
その夜、ひとりで泣いていると、目の前に、真っ黒な服をまとった不思議な青年が現れる。
彼は自らを「悪魔」と名乗り、夕夏に取引を持ちかけた。「君の命を助ける。その代わりに、君の最も大切なものを一つ奪う」と――。
目覚めると、夕夏の腫瘍は良性に変わっていた。しかし、彼女はここ2年間の記憶を失っていたのだ。
けれど、夕夏には頼れる人もいない。両親とは、夕夏が幼い頃に起きたある事件をきっかけに疎遠になっていた。
病院から報せを受け、夕夏を心配した両親は、長野から駆けつけるが、夕夏は心を開くことができない。
就職して3年になる銀行でも、仕事の内容が全く思い出せず戸惑う夕夏。後輩たちから何故か恐れられているのも気にかかる。
窓口に連日やってくるクレーマーの対処にも手間取り、夕夏は意気消沈する。
そんなある日。同僚の菊池から誘いを受け、心が浮き立つ夕夏。
時を同じくして、アパートの前に、あの夜、枕元に立った謎の青年が現れ――。
「私の一番大切なものって、何だろう……?」
小さな違和感が、大いなる感動とともにほどけてゆく。涙なしには読めないやさしいラストが待つ、極上の恋愛ミステリ。
☆感動の声、続々!!!☆
記憶に何らかの理由でアクセスできなくても、周囲の人たちの中に、自分の知っている自分よりずっとはっきりした輪郭を持って、自分がいる。それを再発見できるってこんなに幸せなことなんですね。
――大学生・20代男性
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