取り寄せ不可
三十年、この形見を手放せなかった。
坂本龍馬を生涯想い続けた女、
千葉佐那の人生。
北辰一刀流の千葉家で生まれ育った佐那は、
坂本龍馬と十六歳の時千葉道場で出会う。
しかし、惹かれ合う二人を時代の波が引き裂いた。
そして三十九年後――。
千葉灸治院で働く佐那のところへ
板垣退助の紹介という男が現れる。
「坂本龍馬先生と佐那さんは縁があると
お聞きしたので」
すると、佐那は文箱から袷の袖を取り出して――。
大政奉還後の日本の道筋を作った男、坂本龍馬。
その許婚として龍馬を待ち続けた女、千葉佐那。
運命に翻弄された二人の、
知られざる愛の物語。
===
「佐那殿、品川の海じゃ、綺麗じゃのう」
龍馬は品川の海を眺めながら両手を広げ、
大きく深呼吸をした。
「ほんとに……」
佐那も眼下の波打ち際から遠くの地平線まで
眺めて感歎の声を上げた。
佐那だって海を知らない訳じゃない。
何度も江戸湾の海は見てきている。
だが今日目の前に広がる海は、
太陽の光を受けてきらきらと輝いていて、
それがどこまでも続く光景は、前途は幸せに
満ちている、希望は無限に広がっていると、
佐那に囁いてくれているように思えた。
(本文より)
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