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本書は、信州をフィールドとして、産業遺産の発掘・保存にも深く関わってきた著者が、郷土から忘れられているすぐれた技術文化に光を当てるべく、2007年に近代文藝社から出版した『安曇野の近代化遺産―技術史再考―』を改題し、アグネ技術センターから刊行するもの。
第一章「安曇野と拾ヶ堰」では、江戸時代の文化13年(1816)に、灌漑用水路・拾ヶ堰を造った人々を取り上げている。北アルプスの山麓に広がる安曇野が、長野県を代表する穀倉地帯・米どころになったのは、今から200年以上前に、大自然の中に人工的に組み込まれた灌漑用水路・拾ヶ堰の恩恵によるものである。著者は、今に伝わる貴重な史料・古文書を丹念に紐解き、日本疎水百選にも選ばれた拾ヶ堰が、地元農民によって計画され、松本藩を動かして造られた史実を明らかにしている。
第二章「御時計師・渡辺虎松と和時計」では、江戸時代に機械時計をつくった松本藩御時計師渡辺虎松の仕事について、現存する渡辺虎松銘の三つの時計の細部の説明も交えて記述している。和時計とは、明治時代以前に発達した日本独特の時計で、珍しい文字盤や歯車仕掛けをもった機械時計のことである。著者は、和時計の歯車仕掛けの技術的蓄積が次の時代の発明につながっていったと説いている。
第三章「臥雲辰致とガラ紡機の発明」では、堀金村(現安曇野市)出身で、独創的な紡績機械「ガラ紡機」を発明した臥雲辰致のすぐれた業績にふれる。引き出した糸を回転させながら撚りをかける西洋式紡績機械に対して、臥雲辰致のガラ紡機は、原料の綿に回転を与えながら引き出された糸に撚りをかけていくのが特徴である。この微妙な違いが、一筋の綿糸に目に見えない質の違いを与えて、柔らかな構造の糸、和紡糸を紡ぎ出した。長野県、愛知県を中心に各地に広まり、日本の近代産業発展の一助となった「ガラ紡機」は、西洋式機紡績機械の発達とともに衰退したが、地球と人にやさしい「和布」として、近年再び注目されている。
第四章「安曇最初の電気・宮城発電所」では、明治37年(1904)に創設された安曇電気株式会社宮城発電所(現 中部電力・中房川宮城第一発電所)を取り上げる。そこでは、1903年に設置されたドイツ製造の水車VOITHと発電機SIEMENSが日本の現役最古として現在でも稼動している。
第五章「高瀬川電力開発と森矗昶」では、大正十二年(一九二三)の夏以来、高瀬川第二、第三、第四、第五発電所を二年半の間に建設した東信電気株式会社の建設部長・森矗昶(のぶてる、のちの昭和電工社長)の業績を記述する。高瀬川発電所の電気エネルギーこそ、大町にアルミニウム精錬を根づかせ、「アルミニウム発祥の地」を支え続けることになった。
五つのテーマ・史実に限定した本書は、「安曇野の産業遺産」と銘打ってはいるが、安曇野にとどまらず、日本全体の技術史を展望する一冊である。
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