空の間

空の間

取り寄せ不可

出版社
ふらんす堂
著者名
Heart Spade Dia Club
価格
3,300円(本体3,000円+税)
発行年月
2019年6月
判型
A5
ISBN
9784781411644

◆作品紹介

午睡がおわった。

浜へ出る。

日の傾きはおそい。

虹をとかした白線がうちおろす。

白砂が靴底へからみ、こぼれる。

かまってほしい子どもらを蹴飛ばしてゆくように、

無下にあしらう残酷さのきざしに、

淡い快をも感じたりしつつ。



海鳴りは飽きた。

ときおりここへくる人は、みんなこの青い水たまりに感嘆する。

辺境の故郷への幽閉はひどくおそれるくせに、

ときおりなぜか幸福げにおとずれはしゃぐ帰郷者たちのように。

なつかしいのだろう。

時々ということ。つかの間のアバンチュールのごとき余裕が、

そうした酔いと感傷じみた想いにさそうのだろう。



風がうっとうしく、肉や血や記憶の匂いをはこび、

望みもしないこちらの顔にたたきつけてゆく。

焼けた砂をときおりなだめにくる汀では、

小麦色のサルたちが奇声をあげ、宙にビーチボールをうつ。

帝国末期の銀貨幣の髪色した女は、せわしなく水着のずれをなおす。

裸と大差ないんだから、どうせなら脱ぎ捨てればいいのに。

おサルさんみたいで、おサルさんにもなりきれない……

それが悩ましいトコロ。

顔がかくれるほどにガムふくらませ通りすぎた。

しぼむ途中はじけ、鼻のあたまにネーブルの香りはりつき、ちぎれる。

明日は雨がくるだろうか。

ひけらかす陽をあおぐ顔をつまさきへ。

文明の轍のように、くつは砂を蹴散らしてゆく。

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