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"地方の裕福な家に生まれながら、その家系を“偽物""と嫌悪する真奈美は、大学三年の夏、友人アイリーンの紹介で、資産家でゲイの潤と新宿歌舞伎町で出会う。
二人に連れられ、初めてホストクラブを訪れた真奈美は、潤ともマクラ(枕営業)するというナンバー2の聖也に興味を持つ。
――じゃあ、潤さんもこのひとと――。(中略)この男なら、あの屋上での体験を、もう一度味わわせてくれるかもしれない。そんな甘美で根拠のない期待が、真奈美の胸の中に満ちてゆく。
「わたし、このひとにします」
――この男が、潤と寝るのだ。想像するだけで、頬が上気してくる。(中略)通うだろうな、と真奈美は思った。そして、聖也の体を知っている潤が、羨ましいと思った。
真奈美と潤は急速に親しくなっていく。二人の間には、一見すると恵まれた境遇への強烈なコンプレックスと、自分は偽物であって決して“本物""の存在にはなりえないという諦念があった。
ある時、潤に誘われてワーグナーのオペラ「タンホイザー」を鑑賞した真奈美は、主人公の騎士タンホイザーを甘美な堕落へと導くヴェーヌスの姿に、血が沸き立つような感動を覚える。
<不可逆的な、本物の堕落へ至ること>
それこそが、自身の求めているものだと確信した真奈美は、潤にその想いを告げた。
秋。真奈美は潤から呼び出され、聖也を交えた3Pを提案される。
「聖也と、あんたとあたしの三人で、やってみない?」
「したい。わたしもしてみたいです」
真奈美は迷いなく答え、やがて三人は特別な夜を迎える。自らを捕らえ続けてきた軛から解放されるために。ふくらみ続ける“本物""への渇愛を断ち切り、自らが“本物""になるために……。暴力的なまでに切ない、ある愛の物語。気鋭の歌人による、才気迸る小説デビュー作誕生!
【著者略歴】
小佐野 彈(おさの・だん)
1983年東京都世田谷区生まれ。2007年慶應義塾大学経済学部卒業。大学院進学後に台湾にて起業。台湾台北市在住。2017年「無垢な日本で」で第60回短歌研究新人賞受賞。2018年、第一歌集『メタリック』刊行。2019年第12回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」、第63回現代歌人協会賞受賞。今作が初の小説作品となる。"
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