特集:子ども学研究への提言2019
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『子ども学』第7号発刊!
子どもについての研究は,保育学でも,児童文化論でも,発達心理学でも,小児医学でも,もちろん脳科学や赤ちゃん学でも行われています。しかしその成果は,まだまだ十分とはいえません。十分でないというのは,個々の成果が乏しいということではなく,子どもについての研究や学問が,学問全体の長い歴史から見ると,まだ一部を除いて多くが駆け出しの段階だということです。
子どもについての研究は,いくつかの点でハードルがありましたし,今もあります。一つは,ほんの幼い時期の子どもは,これまで研究方法が十分に開発されなかったこと,赤ちゃんの研究などは,コンピュータや測定器具の発展なしには不可能でした。これまでは,育児の最中の赤ちゃんの様子から,生まれてすぐには,目は見えないのだ,抱っこの習慣をつけすぎると,あとで苦労する等々の理論をつくっていたことが多かったのです。もう一つは,あまり指摘されませんが,子どもを研究することが社会の発展につながるとか,経済的な利益につながるなど,世俗的なメリットにつながらない,という判断があったことも,多くの人が子どもを専門的に研究しようと思うようにならない要因でした。
しかし状況は大きく変わってきました。測定の器具などの発達で子どもの内的世界の様子がある程度データとして客観化できるようになってきましたし,育児の困難などの現実が,逆に子どもの育つ条件の解明に向かわせています。保育・幼児教育の重視策が,対象としての子どもの研究を要請していますし,乳幼児期の体験とその段階で身につけるものが,その人の一生に果たす役割についても,より実証的に研究できるようになってきました。子ども研究は,社会政策の基礎学ともなり得ますし,経済政策の基礎学ともなりうることが見えてきています。
本誌今号のテーマの内容や論考の諸テーマが,そうした機運が高まってきていることを実証しています。子どもは十分に哲学研究のテーマにも,対象にもなること,子どもの育ての内容と質が平和の実現に直結していること,その意味で育児・保育は,政治学の実践でもあること,環境論は子どもを媒介とすることでラディカルになりうること,そして保育の実践が記録を媒介にすることで,即,子ども研究になりうることなどが説得的に示されています。今後,たとえばこうした研究を積み重ね,これ以外の,たとえば子ども研究の社会学とか,子ども研究の政治学,子ども研究の歴史学,あるいは子ども研究と環境保全学等々,子ども研究自体がほかの学問に問いや課題を投げかけるようになることを期待してやみません。(編集委員顧問 白梅学園大学・短期大学名誉学長 汐見稔幸「はじめに」より)
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