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本書は16世紀と17世紀のヨーロッパで,もっとも愛読されたエラスムスの著作である。エラスムスは若い人にラテン語を教えるに当たり,教師と生徒との対話形式による新しい教授法を開発した。そのために様々な主題を選び『日常会話文例集』(1518年)という実用的な手引きが刊行された。本書は好評を博し,その後,多くの新たな対話が加えられ,書名も『対話集』(1526年)となった。
本書では恋愛・結婚・旅行・宗教・政治など,社会生活の様々な面が扱われる。登場人物も高貴な青年,着飾った市民の妻,詮索好きな巡礼者,修道会の代表者に付きまとわれる死者,哲学者の石を探す錬金術師,取引にたけた男と無知な先生,性病に感染した老人と結婚させられた若い婦人など多種多彩である。
エラスムスは当時世界を支配していた教皇,司教,司祭,修道士から皇帝や騎士,兵士に至るまで,社会で重要な地位を占めて腐敗と堕落の温床である特権階級に鋭い批判を向けた。ただそれは単なる批判ではなく,正しい生き方を修得させるものであり庶民の熱い支持を得たが,同時にルター派やカトリック教会からは激しい批判を受けた。
本書は豊かな人間洞察によりキリスト教的人文主義者の精神を見事に表現し,真の教養とは何かを示す待望の書。
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