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「脳は予測装置であり、その予測能力は、絶え間なく生成しているさまざまなリズムから生じる。」2006年に刊行された原著は、それまで“ノイズ”にすぎないとされていた脳内リズム現象の見方を一変させ、すでに現代の古典となっている。本書はその待望の邦訳。
脳内のリズム現象は私たちの認知機能の中核を担っている。脳の中では振動子としてのニューロンが集団的に同期しつつ、f分の1揺らぎ、時間窓によるスイッチング、確率共振といった特性を利用しながら、思考や記憶などの複雑かつ統合された能力を創発するシンフォニーを奏でているのだ。本書は初歩から説き起こされているが、全体としては驚くほど包括的に書かれており、読み終わるころには振動ダイナミクスと認知機能の関連が具体的に見えてくる。
たとえば後半の第11章(Cycle 11)では、場所細胞のスパイクという細胞レベルの現象と、θサイクルというネットワークの振動現象によって、動物が周囲の空間を把握し、予測し、記憶しながら移動できる仕組み(空間ナビゲーション)を機械論的に説明しきっており、圧巻だ。
神経科学の最前線を長年走ってきた著者による一貫したビジョンに基づき、まさに脳の捉え方を変える、刺激的な一冊。
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