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東京都墨田区は、ピーク時の1970年には立地工場数が9703を数え、大田区、東大阪市と並んで日本を代表する工業集積地、中小企業のまちとして知られてきた。だが、高度成長期を過ぎた頃から急激に工場数を減少させ、現在その数は二一五四となっている。
同区には明治初期から近代産業が移入され、皮革、メリヤス、紡績、ガラス、ゴム、合成樹脂産業などが拡がっていった。これらの産業製品は、やがて「メイド・イン・トーキョー」として全国に普及していく。墨田区は右の諸産業の発祥の地であり、「メイド・イン・トーキョー」の象徴ともいえるまちなのである。
筆者が墨田区の中小企業と出会ったのは1973年。以来四五年の付き合いになる。この間、円高により対米輸出が消失した一九八五年以降、中国に向かう企業も増えたが、その多くは挫折して国内に戻り、やがて退出していった。
一方、国内に踏みとどまり生き残った中小企業は独特なものを身に着けることになった。自社ブラントの形成、大都市東京で生まれる新たな要請への対応、付加価値の高いモノづくり、幅広いネットワークの構築、オープンイノベーションへの挑戦など、従来とは大きく異なる道を見出していった企業が多い。これら中小企業の歩みには、「新たなメイド・イン・トーキョー」の可能性が示されている。そしてそれは成熟化、人口減少、高齢化、グローバル化に直面する日本の地域産業・中小企業の今後にも重要な示唆を与えるものでもある。
古希を迎えた筆者にとって、その示唆をまとめるには今が最後の機会かもしれないと考え、この一年、改めて100を超える中小企業を訪問した。いずれも新たな時代を意識し、生き生きと可能性を語ってくれた。モノづくり企業や工場の数は減少したとはいえ、成熟時代を先導する「新たなメイド・イン・トーキョー」の拠点としての内実はむしろ濃密になっている。生まれ変わりつつある墨田区の今を多くの方々に知っていただければと思う。(せき・みつひろ)
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