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本書「序辞」(楠淳證)より抜粋
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蔵俊撰『仏性論文集』は、立命館大学アートリサーチセンター所蔵の資料群「藤井永観文庫」の中にある一帖であり、これまで全く知られていなかった新出貴重文献である。早稲田大学のニールス・グュルベルク氏が初めてその存在に目を止め、氏より情報を得た編集者の一人である舩田淳一がごく初歩的な調査を実施した後、楠淳證・舩田淳一・野呂靖・村上明也・小野嶋祥雄・吉田慈順の六名で共同研究を行なうことになった。
本帖『仏性論文集』の作者である菩提院蔵俊(一一〇四─一一八〇)は、平安末期の著名な唯識学匠であったが、現存する著書の数は少なく、僅かに『第六巻菩提院抄』『法相宗章疏目録』『法華玄賛文集』(巻八〇・八六・八九・九〇のみ)の三書が伝えられる他は、数点の短釈が残されているにすぎない。そのような中、本帖は新規に発見された極めて貴重な書籍といってよく、本帖を解明することによって蔵俊教学はもちろんのこと、世親(四〇〇─四八〇年頃)の『仏性論』研究にも大きな一石を投じるものと期待される。
繕写させた人物は、蔵俊の法孫であった解脱房貞慶(一一五五─一二一三)である。その奥書によれば、本来は一部十二巻の大著であったが、貞慶が入手した折りには第四巻もしくは全十二巻の内の四巻分が欠落した状態にあったという。さらに現存写本は抄出本であり、全四十八丁しか残されていない。また、抄出本であったためか題名もなく、表表紙に付された後補題箋に「仏性論」とあるばかりであった。しかし、その内容を検討した結果、本帖は世親の『仏性論』について多角的視野からの検証を行なった勝れた書物であり、ことに現行の『仏性論』が漢訳者の真諦三蔵(四九九─五六九)によって改変されたものであると主張している点に大きな特色を有する書物であることが明らかとなった。題名不詳の書物ではあったが、証文を集録しながら論証していく撰述スタイルが蔵俊撰『法華玄賛文集』と軌を一にするものであったので、我々の研究グループでは、この書を仮に『仏性論文集』と称することにした。また、一部十二巻の書を「原書」、全四十八丁の抄出本を「本帖」と呼ぶことにし、楠・舩田・野呂・村上・小野嶋・吉田の六名で分担し、翻刻読解研究を行なうことにした(煩雑な文書整理は一貫して村上が担当した)。したがって、本研究書は単なる文献の翻刻紹介ではなく、第一部総論はもちろんのこと、第二部の翻刻読解研究においてもまた、各自の研究成果を反映した「論稿」スタイルがとられている。
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