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世の中は、まさにAI(人工知能)ブームである。AIが組み込まれた家電をネット通販店で買えば、通販店サイトのAIが作動して関連商品の宣伝メールが嫌というほど送られてくる時代。便利ではあるが、「鬱陶しい」というのも事実だ。さまざまな二律背反をはらむAIは、人類の味方なのだろうか、それとも敵なのだろうか。
物語の主人公である悠木翔【ゆうきかける】は、科学記者としてAIやロボットといった最先端技術の取材に明け暮れている。AIは労働力不足を補うツールとして期待される反面、人間から仕事を奪うのではと危惧されもするわけだが、悠木はAIの進化が人類を豊かにすると信じている。そんな悠木に、突然、未来から電話がかかってきた。200年先の未来社会では、人間は仕事と生きがいをなくし、希死念慮にとりつかれているという。
一方、悠木の生きる現代社会では、人手不足から過重労働を強いられ、自死を選ぶ労働者が後を絶たない。この危機的状況を改善する手段として、AIによる労働力の代替が期待されているのだ。つまりAIは人類の「救世主」となるはずなのに、なぜ――このギャップが、悠木を苦しめることになる。
科学技術は予想を超えたスピードで(指数関数的に)進化している。実はその進化のなかに、未来の人間を破壊するウイルスが仕組まれているのだ。21世紀人である悠木は、未来人との接触を通じてAIをめぐる葛藤と闘うが、彼は悲惨な未来社会を垣間見てもなお、はっきりとした答えを見いだすことができない。
アメリカの思想家であり、AI研究者であるレイ・カーツワイルは「シンギュラリティ」(特異点)という概念を用いて、2045年にAIは人知を超えると予言している。問題は、この予言が当たるか否かではない。AIの進化に組み込まれた「破壊因子」に我々はどう対処すべきなのか、そこが問われているのだ。悠木にも、その答えは見つからない。あなたは本書に鳴り響く着信音【リングトーン】をたよりに、その答えを出すことができるだろうか。
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