奈良絵本集 一

新天理図書館善本叢書

奈良絵本集

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出版社
八木書店古書出版部
著者名
天理大学附属天理図書館 , 石川透 , 恋田知子 , 齋藤真麻理
価格
36,300円(本体33,000円+税)
発行年月
2018年12月
判型
A4
ISBN
9784840695732

[1]天神縁起絵巻(室町末期写、一軸)
〔解題〕恋田知子
 菅原道真が神として祀られる次第を述べた天神縁起の一本ではあるが、鎌倉時代に成立した『北野天神縁起』の内容とは大きく異なる。太宰府へ遠琉された復讐譚を軸に、逸話や和歌を交えるなど、物語的な要素を多く取り入れた作品となっている。画中には「なんほうの物か、やけつらん」「さても、とをきうみかな、はや、いく日、きぬるそや」等の台詞が多く書き込まれ、室町時代の人々の生き生きとした話し言葉を窺い知ることができる。室町期の書写と思われる天神縁起絵巻の中でも、本文の完備した本書は稀な伝本である。

[2]八幡大菩薩御縁起(江戸中期写、二軸)
〔解題〕恋田知子
 本書は八幡大菩薩の縁起絵巻。応神天皇の母である神功皇后の三韓出兵、および応神天皇が八幡大菩薩として現れ、各地で祀られる経緯を描く。素人風の絵柄で、江戸中期と見られる写本であるが、享禄四年(一五三一)「大和州添上郡御陵金剛佛子良尊」の本奥書を持つ。伝存する諸本の中でも、本文成立過程をたどる上で、重要な一本である。寶玲文庫旧蔵。

[3]鼠の草子絵巻(室町末期写、一軸)
〔解題〕齋藤真麻理
 鼠と人間の婚姻譚。清水観音の助けで姫君と結ばれた鼠の権頭は、姫君にその正体を知られ、悲嘆のあまり出家する。悲劇的な結末だが暗さはなく、「こちよとの、きゝたまへ、われわれをは、とのさまをはしめ、みなみなも、ふりよしと、おほせられ候、かほも、やなぎがをにて候とて、御ほめ候」等に見られる人間味溢れる会話がふんだんに書き入れられ、ユーモラスに描かれる。素朴な絵柄に本文と会話が一体となった奈良絵本の古様を示す。

[4]鼠の草子絵巻別本(江戸初期写、一軸)
〔解題〕齋藤真麻理
 本書は祝言の場面を中心とした絵巻ではあるが、絵を中心に会話を交えて展開してゆく、絵巻らしい流動感に富んだ作品。調理場の料理や盛り付けにかかる慌ただしい様子、芸能者達の列や祝いの餅つき等の描写をはじめとして、流行の歌謡を取り入れるなど、当時の風俗を知り得る貴重な資料ともなっている。画中の煙草や髪形など、また書き込まれた歌謡からみると、江戸初期の制作かと思われる。

[5]やひやうゑねずみ(江戸初期写、一冊)
〔解題〕石川透
 白鼠の弥兵衛を主人公とする祝儀物。白鼠は大黒天の使者といわれ、古来より吉兆とされてきた。本書は上冊を欠き、弥兵衛が出会った鼠から、ここは常磐国であると教えられるところから始まる。福の神として長者の左衛門に厚遇され、土地の鼠たちからも歓待された弥兵衛は、左衛門によって妻子と再会した恩返しに子鼠と金銀を贈り、左衛門はますます富み栄える。昔話の「鼠の浄土」に通ずるところがあり、土地の鼠による饗宴の絵などは、それを彷彿とさせる。末尾に「はるのはしめに、まつこれをみる事成り」とあるように、縁起物として正月に読むのが相応しいとされた。藤井乙男旧蔵書。

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