島の鳥類学

島の鳥類学

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出版社
海游舎
著者名
水田拓 , 髙木昌興
価格
5,280円(本体4,800円+税)
発行年月
2018年9月
判型
A5
ISBN
9784905930853

本書は,九州よりも南西に位置する数多くの島々,琉球列島を中心とした南西諸島において,28人の執筆者が鳥を材料にして行った研究を紹介するものである。編者は本書を単なる研究紹介にとどめるつもりはない。野鳥愛好家には野外において科学的に野鳥観察を楽しむための知識,初学者には島における鳥の研究を発展させるためのヒント,研究者には日本の鳥学がおかれている現状を理解するきっかけをそれぞれ提供したいと考えている。その一助として,各章の冒頭で,各執筆者が南西諸島における研究の楽しさや辛さ,今後の研究の方向性などを自由に記述している。これらは研究の実体験に基づいた執筆者から読者への本音のメッセージである。
 本書は,日本における鳥学の裾野の拡大と底上げも見据えている。ここでは本書の各章のエッセンスを簡単に紹介するうえで,2つのことをあえて記しておきたい。1つは,編者が考える日本の鳥学の短所と長所,もう1つは,日本列島の植物相と動物相の成り立ちについてである。読者はこの2つのことを意識しつつ,読み進めていただきたいと思う。 
 本書が扱う琉球列島,大東諸島,尖閣諸島と同様に,伊豆諸島や小笠原諸島は非常に魅力的な島々であり,上述のように北海道・本州・四国・九州も研究素材が詰まった大きい島である。南北に長く,高い山をもち,多くの島からなる地理と地史的長所がある。そこに個体レベルでの長期研究,および,より詳細な遺伝子レベルでの個体群構造の解明を重ねることが,世界をリードする研究に導くだろう。日本列島の鳥類相は,アゾレス諸島,カナリア諸島,マデイラ諸島における鳥の種分化や群集に関する研究 (Rodrigues et al. 2013; Rodrigues et al. 2016; Valente et al. 2017),トリスタンダクーニャ諸島のNesospiza属の生態的種分化 (Ryan et al. 2007),ハワイ諸島やガラパゴス諸島における総合的な進化学研究に負けない素材があるはずだ。もちろん長期研究だけが崇高な研究というわけではない。各章を読んでヒントを得てほしい。日本の鳥学の長所である個々の研究を見ることができる。そのうえに日本の鳥学の未来が開かれるだろう。

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