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約20円(1MYR)で買収したエアアジアを低コスト航空の雄に育て上げた実業家
アジア初の低コスト航空会社の起業で成功を収めた後、F1チームや英国プレミアリーグのサッカークラブをオーナーを務めるなど、次々と夢をかなえてきたトニー・フェルナンデス。
挑戦し続けるビジネス・リーダーが、幼少期からの今日に至る自身の歩みとともに、不測の悲劇への対応やビジネスの原則について綴った、貴重な半生記。
本文より
2001年12月8日、デューデリジェンスが完了した。ついに契約書にサインをして、私たちは航空会社を引き継いだ。ペンと書類を片付けると、DRB-ハイコムの最高経営責任者は、こっちを向いて眉を上げてみせた。おかしいなと思いながらも、私はほほえんだ。すると、彼は手のひらを上にして右手を差し出し、言った。「じゃあ、払ってもらおうか」
「えっ?」
「きみとディンに1リンギットの貸しがあるぞ」
私は声を上げて笑い、財布を取り出した。だが、現金がない。ディンを見る。彼も尻ポケットから財布を出したのだが、中をのぞくと、肩をすくめた。
「貸してもらえるかな? 手持ちの金がないみたいで」
笑いが収まると、CEOは1リンギット紙幣を見つけてこちらに渡し、私たちはそれを仰々しくお支払いした。これでエアアジアの買収が完了したのだ。あのときの金を、ディンと私は返してない気がする……つまり厳密に言えば、私たちはこの航空会社をタダで手に入れたわけだ。
それからというもの、エアアジアの経営は、これまでに乗ったことがないほどスリリングでヘトヘトになるジェットコースターみたいなものだった。私たちは経験と勘を頼りにするしかなかった。たしかにスタッフは自分のやるべき仕事をしっかり把握していたが、経営する私たちの側は、すべてのプロセスを結びつけなくてはならず、スムーズに事を運べるようになるまでには、少し時間がかかりそうだった。
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