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1938年3月26日の夜、イタリア人の若者がパレルモからナポリ行きの郵便船ティレニア号に乗船したあと、忽然と姿を消した──。
その名は、エットレ・マヨラナ(1906年8月5日生)。1929年、エンリーコ・フェルミの主査のもとでローマ大学に提出した論文で学位を取得し、1933年には陽子と中性子のあいだに両者を原子核に結合する何らかの力が働いているという仮説を提示した、新進気鋭の理論物理学者である。彼の名は、その仮説に基づく「マヨラナ型核力」の名称で今日も知られており、失踪した当時はナポリ大学に新設された理論物理学講座の教授に31歳の若さで就任した直後だった。
順風満帆に見える人生を歩んでいるように見えたマヨラナは、なぜ失踪したのか? 自殺、修道院への隠遁、南米への亡命などなど、さまざまな説が唱えられたが、今日に至るまで真相は明らかになっていない。
本書は、哲学界の重鎮アガンベンが、この事件を取り上げ、マヨラナが姿を消した理由、姿を消さなければならなかった理由を、原子物理学の現状と行く末にマヨラナが抱いていた危惧を背景にして追求する。
マヨラナの論文「物理学と社会科学における統計的法則の価値」を手がかりにして、アガンベンは失踪の原因が「不安」や「恐怖」といった心理に還元されるべきものではなく、《科学は、もはや実在界を認識しようとはしておらず──社会科学における統計学と同様──実在界に介入してそれを統治することだけをめざしている》という認識にマヨラナが至ったことと関係している、という地点に到達する。その果てに見出されるのは、「実在とは何か」という問いを放つにはどうすればよいか、ということにほかならなかった。
古今の文献の渉猟とともに綴られる本書は、「確率」という大問題を巻き込みながら、ゆるやかな足取りで歩む旅の記録のごとき印象を与える。第一級の思想史家・哲学史家であるアガンベンにしかなしえない「実在」をめぐる問い!
*マヨラナの論文「物理学と社会科学における統計的法則の価値」のほか、本書で重要な意味をもつ、ジェロラモ・カルダーノ『偶然ゲームについての書』の本邦初となる全訳を併載。
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