子ども・家庭・婦人博覧会
「近代家族」の成立と展開、家庭生活の改善・合理化、国家と結びつく児童中心主義、国際情勢による「子ども」「婦人」観の変遷、ファシズム的優性思想など、大正~昭和戦前期の諸相を反映した貴重な博覧会資料を集成。
【監修にあたって】
木村涼子 (大阪大学大学院教授)
万国博覧会に刺激を受けて発展した内国勧業博覧会は、博覧会というイベントを定着させた。内国勧業博覧会においても、子どもや婦人は入場者として意識されており、子ども連れの家族が楽しめる娯楽的なもの、教育や家庭教育に関する啓蒙的もしくは新しい商品を紹介する展示、消費者としての女性を引き付ける展示などが設置されていた。
しかし大正期になると、子どもや婦人に特化した博覧会が新たに流行し、「子ども」「家庭」「婦人」というキーワードを冠した博覧会名称が増えていく。三つのキーワードを結ぶ中核には「(家庭の)外で働く」夫と「(家庭の)内を守る」妻という近代的な性別分業をおこなう夫婦とその子どもを基本単位とする「近代家族」がある。男性が公的領域で生産活動をおこなうのに対して、女性は私的領域である家庭において家事育児と家庭運営のための消費生活をおこなう。分業によって支えあう夫婦は、ふたりの「愛の結晶」である子どもを大切に生み育てる。これらの博覧会は、この「近代家族」を柱として、国家が求める家族像と私的な領域としての家族の強調、児童中心主義と小国民育成、レジャー娯楽志向と啓発・強化活動志向、性別役割分担と女性の地位の向上、国家主義と市場主義など、対立ないしは別方向を指したベクトルが交差する場となっている。多様な側面が、あるときは混然一体と総合的に、またあるときは矛盾や対立を露呈したままバラバラに提示されており、極めて興味深い。
本配本では、その三つのキーワード「子ども」「家庭」「婦人」を冠する、大正期から一九三〇年代にかけての国内の博覧会に関する記録冊子などを収集した。それらの資料をつぶさに読み込んでいくと、近代の「子ども」「家庭」「婦人」概念をめぐるポリティクスが透けて見えてくるだろう。近代史をめぐる様々なテーマに本博覧会資料が活用されることを切に願う。
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