雨野では

雨野では

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出版社
エー・ティー・オフィス
著者名
藤子じんしろう
価格
2,200円(本体2,000円+税)
発行年月
2018年7月
判型
B6
ISBN
9784908665042

地震 大雨 火山爆発 ――あの年、熊本県を中心に襲った災害の数々。なにかの始まりなのかもしれない。まだ過去の出来事とも言えない。愛犬みるくは、大地震の後の何カ月も続く揺れの恐怖のなかで、もう吠えたてる激しさも失せ逝った。

 天禍だからと/簡単には呑めないよ、な/ハリセンボン/9月になったからとて/油断するな



ヒトも、生物も、安全を追求してさまざまなものをつくり出していく。長い時間をかけ、身を守るため体を大きく見せ、武器で守ろうとするのだが。

 どうせボクラハ/忘れられの 人間同志の/夢まぼろしの

//干潟(ありあけ)のハクセンシオマネキ/ナノダカラ

ハクセンシオマネキは、生きていくために大きすぎるほどの武器を振り上げるだろう。しかし、絶滅危惧種への道をたどることになる。藤子じんしろうの詩は私的でおだやかであるが、具体的な体験を通し、根は強烈な文明批評のメタファー(喩)として読者の心の底に触れてくるはずだ。

  道筋を辿るだけでは何も見えてこない

  感じなければ何も見えてこない

 犬もハリセンボンもハクセンシオマネキも、ことばは通じないけれど感じあうことで詩人のなかで戦友となる。絶滅危惧種は私たちだから。だからさまざまなものから「叱咤」されながら、

 どんな人生でも/「たたかい」/は尽きないものだ

ということになるのだろう。藤子じんしろうのことばはたおやかだ。ことばが醸す味わいを感じることが、見えない時代のなかで詩集「雨野では」は生きることの孤独に寄り添うあたたかさとも喜びともなる。

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