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戦前に外交官・外交評論家であった本多熊太郎に関して、御遺族が所蔵する未発掘・初公開の史料と、国立国会図書館憲政資料室・防衛省防衛研究所・國學院大學図書館・徳富蘇峰記念館所蔵の未使用の史料を翻刻して紹介した、近現代史を研究する上で欠かすことのできない第一級の史料集。
なかでも、駐華大使として南京に在勤中の昭和15年から昭和16年までの外交記録類は、外務省外交史料館所蔵の外務省記録には見当たらず、『日本外交文書』にも未収録のきわめて貴重な文書群であり、本書でしか読むことのできないこれらの記録によって、これまで知られていなかった汪兆銘政権の実態と日本との関係など、歴史の重要な局面が初めて明らかになる。
【推薦のことば】
研究の欠落部分を埋める史料群
戸部良一(帝京大学文学部教授、国際日本文化研究センター名誉教授、防衛大学校名誉教授)
本多熊太郎はやや異色の外交官である。明治期に小村外交を支えたが、大正末期にドイツ大使を務めた後、外務省勇退を余儀なくされ、それからほぼ一五年を経て中国大使に復活・起用された。その間、彼は外交評論家として対外硬の立場から政府の外交を厳しく批判し、しばしば政治的活動にも傾斜した。この『関係文書』の手記や書翰には、外交官時代と在野時代の様々な人物との交流を含む彼の異色の経歴が、よく反映されている。最も注目されるのは、やはり中国(南京の汪兆銘政権)大使時代の外交記録である。日本は汪政権との間にどのような関係を構築しようとしたのか。また重慶の?介石政権との和平をいかにして達成しようとしたのか。この『関係文書』には、外交史料館に所蔵されていない当該時期の貴重な記録も収録されている。こうした史料を用いることによって、これまでの研究の欠落部分を補い、さらに新たな方向に研究を展開させる可能性も出てくるだろう。
推薦の辞
柴田紳一(國學院大學文学部准教授)
臼井勝美先生執筆の『国史大辞典』(吉川弘文館)第十二巻「本多熊太郎」の項目には「昭和前期、対欧米硬派の異色の外交官また外交評論家として著名な存在であった」と記されている。ひるがえって現在はどうであろうか。おそらく本多の名を知るものは絶無に近いと思われる(本多が頻出する吉村昭著『ポーツマスの旗』も今や読まれることは少ない)。同じ外交官で戦後宰相となる吉田茂のわずか四歳年上とはいえ、今からちょうど七十年前、吉田が第二次内閣の首班に返り咲く頃、世を去った本多の知名度が、現在そのようであることは、ある意味で自然なことかも知れない。だが、逆説的にいえば、であるからこそいま本書『本多熊太郎関係文書』という一大労編が現出したともいえる。
編者の高橋勝浩氏は、日本近代史の優れた研究者として、また人物に関わる緻密な史料集の編者として、またその周到かつ堅実な姿勢・手法からなる諸成果に対して、つとに定評がある。本書により、本多という奇才に対する本格的研究が切り開かれていく、その期待をここに表明し、推薦の辞としたい。
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