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アリストテレス以来,〈思弁〉は哲学の伝統的な思考様式であった。ヘーゲルにおいて全盛期を迎えたが,彼の死を境に衰退し,それとは逆の思考様式である,人間に直接関わる事象や物に依拠する思考が主流となった。哲学の対象も実存思想や実証主義,現象学,科学哲学といった具体的で現実的なものへと変化した。
しかし現代の哲学が自然科学,社会科学,生命科学などの諸科学,そして常識に支えられた市民社会や日常の生活世界,感覚世界の具体的な問題に深く関わるほどに,逆に哲学が本来もっていた〈抽象性〉という課題に直面せざるをえなくなっている。
本書は啓蒙思想からドイツ観念論をへてヘーゲルに至る思弁哲学の展開過程に光を当てることにより,改めて「思弁とは何か」を問う意欲的な試みである。
第Ⅰ部は啓蒙主義からドイツ観念論への移行期にヘーゲルが思弁的思考を哲学の核心に据えた動機を解明する。Ⅱ部では思弁が人間の教養形成とどのように関わりうるのかを考察し,Ⅲ部は思弁的思考と客観的精神(人倫)の関係を分析する。Ⅳ部は『エンチュクロペディー』(1830年)における思弁の定義に即し,思弁的思考そのものの構造を明らかにする。
著者の明快な論述は,過去と現在,有限と無限の対話を通して,読者を哲学の未来へと誘うに違いない。
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