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本書は、公刊統計で示される以上に不平等が広がりつつあると考えられるベトナム社会を「社会階層」(Social Strata)という枠組みから理解したうえで、ベトナム社会が各人の能力・努力に応じて上昇移動を果たせるような開放性を帯びたものとなっているのか否かという点を考察しようとするものである。社会階層という概念は、経済成長・近代化のなかで生じる社会経済的な不平等・格差の構造や特徴を、経済的資本(所得や資産)だけでなく、文化的資本(学歴)や政治的資本(コネクションや社会的地位)の分配、威信、権力などから、多元的にとらえようとする枠組みである。階層分類の基軸として国際的に共有されているのは職業である。かつて社会階層研究の中心的理論であった「近代化論」(産業化論)では、経済発展が進むにつれて社会の開放性が高まり、階層間の不平等は解消されていくとされた。一方、移行経済国では、経済社会的な上昇が政治的コネクションや家族背景といった本人の努力ではどうにもできない条件に規定される傾向が根強いといわれる。ベトナムでも近年、そうした不公平性(inequity)をともなう格差の拡大と、それに対する不満の高まりが指摘されている(World Bank 2014)。社会に対する不満の高まりは、社会の不安定化につながり得る。ベトナム社会の開放性を検討しようとする本書の試みは、社会の安定性を問う作業でもある。ただし、その作業をするにあたり、現時点のベトナムにデータ的制約があることは否めない。社会の開放性を議論する際、日本のように大規模社会調査によるデータの蓄積が進んでいる国では、職業階層の世代間移動の状況から流動性を示す指標を算出することで、社会変化の趨勢をみるという手法がとられる。しかし、ベトナムでそのようなデータの蓄積はない。そこで、本書では、社会の上層および下層に位置づけられる職業階層の形成過程と特徴を、歴史、制度、経済の諸側面から多面的に精査するというアプローチをとる。すなわち、現在のベトナムにおいて、どのような人々がどういった条件下で上層に台頭しているのか/下層にとどまっているのか、という点の質的な解明を通じて、社会の開放性および安定性を問おうとしている。
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