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地球上では地域によって様々な風が吹き、その土地の気候や風土を形作っている。ある風は恵みの雨をもたらすが、またある風は人間の生活の脅威となる。そして人々は親愛や畏敬の念を込め、古くから風に様々な名前をつけてきた。本書では気象学者である著者が世界の50の風を集め、画家nakabanの絵と散文と一緒に紹介・解説する。旅するようにページをめくり、その土地の空気や、そこに暮らす人々に想いを馳せてみて下さい。
*本書で紹介する風の一例
Elephanta
エレファンタ/インド
アラビア海の商人たちに、船出の季節を告げる風
Tramontana
トラモンターナ/地中海沿岸部
時を超えて、人の心を惑わせる風
肘川あらし/愛媛
川を流れくだる、目で見ることのできる風
Etesians
エテジアン/ギリシア、トルコ
ギリシア艦隊に勝利をもたらし、歴史を変えた風
*著者「まえがき」より一部抜粋
本書でご紹介する局地風(あるいは地方風)と呼ばれる風は、その土地の地形や地表面状態に応じて、特定の季節や天候のときに決まって吹く、という規則性が特徴です。そのため、固有の名前がつけられているものが少なくありません。名前がつけられているということは、その風と、そこに住む人々の生活や文化との間に、なんらかの関わりがあるということ。本来ならば目には見えない風も、そこに住む人々の営みを通じ、具体的に描き出すことができる、それが局地風の魅力といえるでしょう。
本書の風の解説は、学生をはじめ一般の方でも、そこに住む人々の心に映る風の姿を想像しつつ、気軽に風の名前や特徴を知ることができる、そんなイメージで書かせていただきました。これを読んで、それぞれの風が持つ土地との結びつきを感じ、遠い土地の見えない「風」に想いを馳せる方が一人でも増えたら、という願いを込めています。
*画家「絵の制作記」(あとがき)より一部抜粋
誰にも言ったことのない、とはいえ、さして言うほどのことでもない特技がある。
それは目を閉じると「歩いて」しまうということ。
「歩いて」しまえば、あたかも本当にその場所に居るかのように映像が現れる。
その、全ての映像は過去の何処かで目にしたものなのだろう。
絵本や図鑑、映画、旅の景色や日常で。
そでれもなお説明不可能としか言いようのない
見知らぬ景色が次々と立ち現れるのは何故だろう。
それは記憶と嗜好の掛け算で生じるものと、説明できるかもしれない。
けれどももう一つ。
外的要因として、僕はそれはひょっとしたら風のおかげではないか、と思っている。
例えば、一つの粒子から地質学者はさまざまな推測を取り出すことができる。
風は無数の粒子を運ぶ。世界とその物語の小さな断片を。
そのただ中に私たちは生きているのだから。
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