取り寄せ不可
地名行は地名考。下手なミステリー小説より面白い。
──「はじめに」より抜粋──
私が調べた限りでは、魚ヘンの地名だけに絞って一冊にまとめた本はこれが最初ではないかと思う。言うまでもなく、地名全般についての本、辞書は無数にあり、中でも地名学の権威である谷川健一氏の著書『続日本の地名―動物地名をたずねて』(岩波新書)では魚ヘンの地名を扱ってはいるものの一部に過ぎない。
この本は2014年につり人社(本社・東京)から創刊されたルアー雑誌「ルアーパラダイス九州」(季刊を経て現在は隔月刊)の№08秋号からスタートした連載をベースにしている。連載の企画者は同雑誌の編集長、天野三三雄さんである。
「ルアーパラダイス九州」は釣りの専門雑誌だけに様々な魚の釣り方や、タックル、ポイントの選び方などが内容の中心であり、それもまた当然である。その中でこの連載はある意味、異色の、無謀な企画だった。私と天野さんは地名研究家でも、郷土史家でもない。古文書を読む力もない。地名学には門外漢の、ただの釣り好きに過ぎない。
ただ、谷川氏は大著「列島縦断地名逍遥」の中で地名の由来を探る難しさについて次のように記している。
「地名は場所を示す固有名詞ではあるが、いつ、だれが、どうして(どんな理由で、また目的で)つけたか分からないのが大部分である」
この難題に対して、私たちが取った手法は文献主義にかたよるのではなく、ひたすらその土地を歩き、そこに生きる人々に話を聞く現場主義だった。地名はその土地に生きる人々の歴史であり、物語である。
釣り竿を担いだこの旅で何尾の魚ヘンの地名を釣り上げ、その由来を解き明かせたのか。地名考は下手なミステリー小説もよりも面白く、読者の方々も独自の推理、見解を交えながら読み進めてください。
●本書の内容
本書には全15話が収録されています。
15話は『納得明魚編』と『混迷謎魚編』と『神社奉魚編』の三章に分類しました。
『納得明魚編』は土地の人々の話からも地理的背景からも納得のいく魚ヘンの地名だったところです。
具体的にはキビナゴ(魚ヘンに長)網代、鮗ヶ浦、黒鯛、鱒渕ダム、鯨道海岸や鯨油、小鯛や鯛ノ浦などです。
『混迷謎魚編』は、聞けば聞くほど混迷を深めた魚ヘンの地名。当て字や転化などにより本来の意味から大きく変容したケースも少なくありません。
具体的には鮟鱇、鮎帰、鰈岬、鮒越などです。
『神社奉魚編』は神仏になった、あるいは神の使いとなって祀られた魚群です。
具体的には鰾神社、エツ(魚ヘンに齊)大師堂、鮭神社、鯖大師堂、鯰渕などです。
こうした魚ヘンの付くキニナル地名の水辺を歩き、そこに住む方々に話を聞き、時にはその地名ゆかりの魚をねらって釣りをして、その地名の由来に思いを馳せる。それが魚ヘンな旅です。
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