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「ダイナミック・コリア」とは、自国のイメージを世界に伝えるための韓国政府の観光用キャッチフレーズである。2002年の日韓ワールドカップを前に導入され、その後も長く使用されてきた。確かに1960年代からの経済発展と激しい民主化闘争、1980年代の民主化の達成とソウルオリンピックの開催、1990年代末の通貨危機とそれからの V字回復、さらに2000年代のエンターテインメント界での韓流の興隆と、韓国の現代史の展開はダイナミックそのものであったといえる。そして2016年秋の崔順実スキャンダルに端を発して朴槿恵大統領の弾劾から2017年5月の文在寅新政権に至る大きな政治変動も、韓国のダイナミックさのひとつの表れなのかもしれない。しかし、今回の政治のダイナミックさの背後には、ダイナミックさを失ってしまった経済と社会の現実があるようにみえる。崔順実スキャンダルに対する韓国民の怒りの広がりは、崔順実の娘チョンユラの梨花女子大への不正入学疑惑に対する学生の抗議デモがきっかけになったとされている。抗議の声に対して、チョンユラがSNSで発した「能力がないなら親を恨め、金も実力だ」という身も蓋もない一言が火に油を注いでしまったのである。それだけ人々は格差問題に対して敏感になっている。もちろん、これまでの韓国の経済発展の過程でも社会的な格差は存在した。しかし、経済発展によってパイが拡大して富が広く行き渡るなかでは、格差は大きな問題とはならず成長にともなう必要悪程度にしか認識されなかった。ところが2000年代以降、韓国経済の成長率は低下傾向にあり、とくに近年は低成長が固着化しつつある。世界で躍進を続けていた韓国企業も、かつてのような勢いは失っているようにみえる。成長全体のパイが限られるなかで、格差問題がより意識されるようになっているといえるだろう。
なぜ韓国経済はかつてのようなダイナミズムを失ってしまったのだろうか。それは日本のいわゆる「失われた20年」とどのように異なるのか。そして低成長にともなってどのような社会的問題が生じているのであろうか。このような問題意識のもとに、アジア経済研究所では2015/2016年度に「低成長時代を迎えた韓国における社会経済的課題」研究会を組織した。この2年間の研究の成果をまとめたのが本書である。執筆にあたっては、専門的な分析よりも、韓国の社会経済の現状と問題の所在について一般読者にもわかりやすいように平易に解説することを心がけた。
歴史認識問題などをめぐって日韓両政府間では対立が続いており、とくに日本国内の対韓感情は悪化傾向にある。そのため韓国に対して極端な見方を示す雑誌の特集や出版物の刊行は後を絶たない。本書が韓国に対する冷静な認識の一助になれば幸いである。
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