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荷風の原風景を求めて
永井荷風の代表作『〓東綺譚』が朝日新聞に連載されてから、今年で80年。今さら作品の内容について説明することもないが、名作を名作たらしめた要因の一つに、木村荘八の挿絵が重要な役割を演じたことは異論を待たない。
昭和11年10月に『〓東綺譚』脱稿後、朝日新聞に掲載される翌12年4月から5月にかけて、木村荘八は作品の主な舞台となる玉の井を中心に取材を重ね、独特の線で名作に花を添えた。
いつか『〓東綺譚』の挿絵を描いてみたい――本書は人気のイラストレーターが、風景の詩人と評された荷風の視線を辿りながら、追憶の街並みを甦らそうとした意欲的な画文集である。
玉の井は昭和20年3月10日の東京大空襲で、脂粉の香り一つ残さず焼き尽くされた、わずか20数年の歴史しかもたない私娼街だった。路地入口の「ぬけられます」などの看板は、逆にその奥が陋巷であることを示していたという。
著者は偏奇館のあった麻布から、銀座、浅草、向島、そして玉の井へと、荷風と同じ足取りを歩みながら、名作の原風景を木村荘八のように探し求めていく。
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