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「患者も治療者も支える治療法」認知行動療法により,患者の体験としても治療者の体験としても,わけのわからない状態がわけのわかる対象へと徐々に変化しています。行動分析における刺激-反応の連鎖に沿った,介入可能な対象に変化したのです。それは行動分析に基づいた治療介入の結果が,少しずつでも具体化したからだと思います。ここで言う治療効果とは,「気持ち」や「考え方」など単なる思考行動の変化にとどまらない,目に見える生活上の変化です。日常生活上のわずかでも具体的な歩みが,どうにかなりそうだという希望をつないでくれるのです。症状や問題に圧倒されているのではない,自分自身の力でどうにかなるという実感を身につけさせるのです。患者にとって治療的なこの体験は,治療者にとっても同じではないでしょうか。わけがわからないなりに,ごくわずかずつでも行動分析を通じて対象を理解把握し,できるところから少しずつ治療介入を積み重ねていく過程が,治療者を支えてくれます。どんなささやかなことでも,治療介入の結果が生活上の変化として得られれば嬉しくなります。なにも大上段に構えた治療論や「根本的」な治療である必要はありません。治療者として関わり,患者がほんのわずかでも生活しやすく楽になってくれれば元気が出ます。本症例のように,治療初期には問題や症状の全体像が見えていなくても,その時々で丁寧に行動分析して治療介入をくり返せば,やがて治療はゴールを迎えます。日常生活上の困難に沿って,例えばどこのスーパーなら行けるとか,洗濯物はいつどこに干すのかとか,具体的な生活行動を取り上げて行動分析し治療対象とすることは,侵襲的ではなく治療的です。途中下車なく病院に来られたとか一人で買い物ができたとか,小さな治療効果の積み重ねが,治療者にとっても焦らずに根気強い治療を続けさせてくれたのです。いつ達成できるとも知れない「根本的」な治療を目指し「ガマン大会」のような面接になるのは感心しません。治療効果が実感できないまま2年3年と経てば,治療者も人間ですから苛立ち無力感に陥るはずです。行動分析して把握できたところだけ,できるところから具体的に治療を進めていく認知行動療法は,治療者に小さな治療効果を実感させてくれます。治療者にとっての小さな成功体験の積み重ねが,患者に対して「もう少しよくなるのではないか」「変わりうるのではないか」と信じ続ける力を与えてくれます。ここで治療者の感じる自己効力感は万能感のような性質ではなく,身の丈に合ったささやかなものです。認知行動療法は治療者にとっても優しい治療法だと私は考えています。(「本文」より)
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