精神医療 87号

特集:多機能型精神科診療所を考えるー地域包括ケアの未来像

精神医療

取り寄せ不可

出版社
批評社
著者名
『精神医療』編集委員会(1992) , 古屋龍太 , 高木俊介
価格
1,870円(本体1,700円+税)
発行年月
2017年7月
判型
B5
ISBN
9784826506656

多機能型精神科診療所の多くは、精神科病院を中心とした病院精神医療を離れ、地域精神医療を志向する精神科医たちによって立ち上げられ、地域ケアの必要性に迫られてデイケアや訪問看護などの諸機能を徐々に追加してきたものである。スタッフも多職種で多様となり、地域に分散する形でネットワークを組み、医療提供に止まらない多機能のケアサービスを提供している。自然発生的に発展したこの多機能型診療所が、地域によっては精神医療・福祉ネットワークの中核的存在になりつつある。
多機能型診療所の拡大は、地域における多様な自己選択肢の拡充を目指しており、患者囲い込みを追求している訳では決してない。しかし、これまで地域で支援を展開してきた障害福祉関係者からは「地域の病院化」を危惧する声もあり、また診療所の多角経営化により、生活モデルを基調とした福祉従事者らの取り組みとの連携が進まず、医師を頂点とした医学モデルの垂直統合型地域包括ケア体制になるのではとの違和感も表明されている。
障害者総合支援法の下で急速に競争原理に基づく市場化が進む障害福祉サービスの中で、とりわけ就労移行支援・就労継続支援A型への株式会社の参入により、医療対福祉という二元論の構図は既に崩れつつある。大規模なチェーン展開力を持つ民間企業の参入により、特に大都市部では過当競争化が進行する中で資本とマネジメント力の強さが、地域の支援サービス寡占化を生みかねない状況となってきている。既存の医療法人も社会福祉法人やNPO法人も、今後は経営上の苦戦を強いられることは想像に難くない。保健・医療・福祉・介護分野での新自由主義政策の流れは止まらず、「我が事・丸ごと」囲い込む企業による地域包括ケア体制構築の経営戦略が進行していくこととなろう。
本来、診療所における外来治療は自由な契約関係であり、治療は同意の下で行われ、治療や支援の名の下での生活管理は許されない。多機能型診療所の掲げる理念に照らして、臨床実践がパターナリズムに陥っていないか、日常業務の点検と見直しが必要である。国を挙げて地域包括ケアシステム化が進行する中で、多機能型診療所は、果たしてこの国の精神科地域ケアを抜本的に変える起爆剤となり得るのか。医療と福祉の価値の相克・葛藤は乗り越えられるのか。各地の実践を踏まえた提起から、地域精神医療/地域包括ケアの未来像を読者とともに考えることとしたい。[巻頭言より]

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