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真珠湾攻撃の三年前、海軍省で三日三晩の夜を徹した実験が行われる。その「街の科学者」は海軍次官山本五十六や、後に「神風特攻」を考案する大西瀧治郎らの前で、水をガソリンに変えるのだという。
石油の八割をアメリカからの輸入にたよっていた日本は、ドイツと同様人造石油や出もしない油田の採掘など、資源の確保に八方手をつくしていた。そうした時に、水を石油に変える科学者があらわれた、というのだ。しかも、その「科学者」は、立派な化学メーカーが後ろ楯となり、帝国大学教授のお墨付きまでもらっていた。
新資料をもとに描く、日本海軍を相手にした一大詐欺事件の全貌。著者の山本一生は、「恋と伯爵と大正デモクラシー 有馬頼寧日記1919」で第56回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した気鋭の歴史作家。
序章 一通の報告書
真珠湾攻撃から遡ること約三年前、霞が関の海軍省の地下室で奇妙な実験が行われた。命じたのは海軍次官の山本五十六、現場責任者は「特攻の生みの親」大西瀧治郎、「水からガソリン」を製造しようという実験である。その詳細を記した大西報告書が見つかった。
第一章山本五十六と石油
第一次世界大戦を機に、石油を制する者が世界を制する時代に突入する。その直後に山本五十六はアメリカ駐在を命じられる。石油とともに注目したのが、空軍力を力説するビリー・ミッチェルの活動だった。帰国した五十六は、やがて霞ヶ浦航空隊に赴く。
第二章「藁から真綿」事件
大正十四年春、山形県庄内地方に姿を見せた詐欺師は、「藁から真綿」をつくる実験によって貧しい農民たちに希望を与える。帝大教授も保証する製造法だったので事業化しようと話が持ち上がり、資金集めが始まった。だが秋を迎え、特許を取得しようとするのだが……。
第三章カツクマ・ヒガシと東勝熊
詐欺師の一味には、華麗な経歴を誇る男がいた。衆議院議長の甥で、ニューヨークでは柔術家、ベルリンでは社交倶楽部の経営者、そして日本では石油輸入会社の専務取締役。波乱の人生の終着駅に立っている男に、どこからか悪魔の囁きが聞こえてくる。
第四章詐欺師から「科学の人」へ
大正から昭和にかけては、錬金術が流行した時代でもあった。その風潮にのって再び金をせしめた詐欺師は逮捕され、裁判が始まる。証言台に立った気鋭の科学者は、なんと「藁から真綿」製造法の正当性を語り、学術専門誌には詐欺師を紹介した論文を発表する。
第五章支那事変という名の追い風
満州事変を契機に燃料問題への関心が高まり、切り札として人造石油計画が発表された。だが山本五十六の危惧した通り、航空燃料の精製技術の遅れは決定的で、中国との戦争が始まるとそれを思い知らされる。社会の弱点を嗅ぎつけた詐欺師たちの暗躍が始まる。
第六章 富士山麓油田の怪
昭和十三年十月、富士山麓から原油が出たとして見学
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