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オットー朝(919-1024年)の東フランク=ドイツ王国史の10世紀前半は,同時代史料が乏しく「歴史叙述者たちの欠如の故に暗黒の世紀」と呼ばれた。その中でフランク帝国において最もキリスト教化の遅れたザクセンの布教の前進基地,コルヴァイ修道院の修道僧ヴィドゥキントは,旧約聖書外典や古代ローマの古典文学の影響を受けつつ,羊皮紙の文字史料とさらに重要な情報源である口頭伝承を活用して本書を執筆した。
彼の筆致は,悪智恵の限りを尽くした陰謀の舞台裏,あるいは英雄たちへの熱烈な讃辞や,勇敢な男たちが死闘を繰り広げる血生臭い戦場の写実的で叙事詩的な描写で躍動する。本書が歴史史料に留まらず「文学作品」として広くドイツ人の間で愛読されてきた理由であった。
オットー朝とザクセン民族の理想的・調和的協調の歴史を,異教的・戦士的エートスからキリスト教的救済史への変遷として捉え,神と直結した神寵王権が国外の蛮族との戦争や国内の内乱の鎮圧を通じて,「平和と協調」を実現していくプロセスが詳細に描かれる。当代の集団的記憶と支配観念との関係を分析する上でも好適な史料であり,中世史や中世文学研究にとっての基本文献である。
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