ベトナムの「専業村」

研究双書

ベトナムの「専業村」

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出版社
アジア経済研究所
著者名
坂田正三
価格
2,420円(本体2,200円+税)
発行年月
2017年3月
判型
A5
ISBN
9784258046287

本書の舞台は、「専業村」(ベトナム語で l?ng ngh?)と呼ばれる中小零細規模の製造業者が集積している農村である。これらの村では、国家による政策的な誘導もなく、ひとつの村にひとつの産業が集積する「一村一品」の経済が形成されている。農業を維持しながら裏庭で小規模に手作業の仕事を行っている農家が集住する農村もあれば、機械を導入した町工場が立ち並び、村の外からやってくる数千人の労働者が雇用されている、工業化が進んだ村もある。製造業だけでなく、運送や原料調達、機械修理などの周辺産業も同時に村内で発達しているところも少なくない。
専業村は、おもにベトナム北部の紅河デルタ地域に点在している。その数は依拠する文献により約1300村から3200村と大きく開きはあるものの、ベトナムの行政の末端単位である「社」レベルの行政単位の数が全国で約1万であることからも、数のうえでは大きな存在であることがわかる(ひとつの社に複数の専業村がある場合もある)。
専業村の多くは、1990年代以降に発展したものである。数百年の歴史をもつ伝統工芸品を製造する専業村もあるが、それらもほぼすべて、計画経済時代の「合作社」(協同組合)という集団生産体制の失敗による衰退から、ドイモイ開始以降「復活」した村である。農地が狭小なため農業の生産性向上だけでは豊かになれない農民の多くは、非農業収入獲得の機会を求めざるを得なかったが、1990年代以降のベトナムでは、古典派経済学の単純な想定とは異なり、このような農民たちが向かった先は都市部だけではなかった。農村で工業部門、サ-ビス部門の経済活動を始める者や、そのような農村へ他の農村から移動する者も数多くいた。政策的な後押しはあったものの、専業村は、基本的には職業選択や移動の自由が認められた農村の個人(世帯)の戦略的な利益追及の結果として生まれたものであり、まさにドイモイによる経済自由化の産物であるといえる。

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