21世紀に入りすでに15年以上が過ぎたラテンアメリカにおいて、軍政は遠い過去のものとなり、民主主義体制はもはや揺るぎのないものになっている。民主主義の定着とともに、市民社会とその基となる市民社会組織は性格を変容させつつ多様で量的にも拡大を示している。他方、1970年代末からの民主化以降、ラテンアメリカの国家と民主主義体制に関する議論、また拡大しつつある市民社会組織に関して活発な研究がなされてきた。そこで21世紀に入って15年が過ぎた時点で、これまで蓄積された先行研究をふまえつつ、ラテンアメリカにおける国家と市民社会組織の関係を整理して、学術的視点からその性格を確認することが本書の目的となっている。
軍政から民主政治に体制転換したことに加えて、1980年代に始まり1990年代に本格化した新自由主義改革もラテンアメリカの経済面のみならず、社会・政治面に関しても大きな変容を与えたことは周知の事実である。それは輸入代替工業化という国家が経済過程に深く関与する経済政策から、市場機能を重視する経済政策への移行を意味している。しかし、新自由主義改革においても、国家の果たす役割が消滅したわけではなく、その役割が変容したことも通説となっている。21世紀に入り南米で成立した多くの左派政権も、20世紀末に実施された新自由主義改革とさまざまな意味で関係してくる。そこで本書の課題は、民主化と新自由主義改革という二重の移行を経たラテンアメリカにおける国家と市民社会組織が、いかなる関係性をもっているのかを明らかにするというものである。
国家論あるいは市民社会論は、主として欧米の経験を基にした議論であるが、それを出発点として、ラテンアメリカにおけるそれぞれの性格を描き出した研究も多々みられ、本書もその延長線上に位置づけられる研究のひとつである。本書は、国家と市民社会組織の関係についてコーポラティズム論を基に利益媒介・政策形成の視点から分析しようとする第Ⅰ部と、民主化後における民主主義の性格と市民社会組織の関係を考察する第Ⅱ部から構成される。また、分析の対象とする国は、メキシコ、ボリビア、ペルー、ベネズエラおよびブラジルである。ここでの研究が、ラテンアメリカの国家と市民社会組織関係をめぐる諸議論に新たな視点を加え、研究上の論争を活発化させることに少しでも貢献できることを願ってやまない。
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