取り寄せ不可
「諦めるな、逃げるな、媚びるな」
──こんな日本人がいた──
極東の島国から「本丸」バレエの殿堂、パリ・オペラ座に討ち入り。
偏見と嘲笑は一夜にして喝采へと変わった。
誰もが不可能と信じていたことを、執念の交渉で次々現実にしてきたタフネゴシエーターは、2016年4月30日、一人ひっそりとこの世を去った。
それは半世紀前、まだ日本が貧しく、西洋のオペラなど夢のまた夢、胴長短足の日本人はバレエには向かないとされた時代。無謀な夢を抱いた一人の若者がいた。
のちに日本で初めてミラノ・スカラ座の引越し公演を実現させ、鬼才モーリス・ベジャールに不朽の名作「ザ・カブキ」をつくらせ、世界各国の名門オペラハウスに自らのバレエ団を率いて乗り込むことになる、その青年の名は佐々木忠次。
日本のオペラ・バレエブームを牽引、カルロス・クライバー、ジョルジュ・ドン、シルヴィ・ギエム……佐々木が日本に招いた伝説のスターたちは、日本人を熱狂させ、劇場を祝祭空間に変えた。
日本人の体型的な弱点を日本人ならではの統一美で勝負することで克服。敗戦国の島国から来たおかしな東洋人と冷たい視線を浴び、日本の官僚の無理解に苦しみながら、各界の大物と一歩もひかずに徒手空拳で直談判。
ついに「THE TOKYO BALLET」は、20年間外部の団体の公演を許可してこなかった、世界中のダンサーが憧れるバレエの聖地、パリ・オペラ座をも制覇。
そして、16年間にわたる執念の交渉の末、誰もが「不可能」と口を揃えたミラノ・スカラ座、ドミンゴ×クライバー「オテロ」の幕が日本で開く。
しかし、「美」と「本物」への激しい渇望は、同時に己を焼く業火となった──。
過剰な情熱が巻き起こす周囲との軋轢、美意識をめぐる衝突、盟友との訣別……。
劇場に生きた男の孤独な闘い。その誰も知ることのなかった舞台裏が、徹底取材により、今、明らかになる。
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