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今、世界でもっとも有名な医者と言えばポール・ファーマーであろう。医師にして人類学者、ハーバード大学教授にして社会活動家として、「もてる者」と「もたざる者」に分裂しつつある世界をつなぎ合わせようと、貧困者の医療支援のために三〇年にわたって闘い続けてきた人物である。
ファーマー自身も、幼いころは改造バスで暮らすという貧しい家庭で育った。大学卒業後に訪れたハイチで、貧しさゆえに病気の治療を受けられない人々の姿を目の当たりにした。そして、一九八七年、仲間とともに医療NGO「パートナーズ・イン・ヘルス」を立ち上げた。
「途上国でのエイズ治療は費用対効果が低い」「地元のヘルス・ワーカーに給与を支払うのは持続不可能だ」といった国際保健の専門家たちの批判を浴びながら、「貧困者に寄り添う医療とは何か」を問い続けてきたファーマーたちの挑戦は、やがて治療効果の劇的な改善をもたらし、国際機関にも影響を与えるようになり、二〇一〇年、ハイチ大地震後には海外援助や復興政策の提言を行うまでになった。今や感染症対策と社会正義の分野で国際的リーダーとなったファーマーは、今日も極貧の人々に医療を届けるために世界中を飛び回っている。
本書はファーマーによる初のスピーチ集であるが、その多くが全米トップクラスの医学校などの卒業式で行われたものであり、これから活躍するエリート層の若者たちに向けられている。しかしその内容は、医療だけでなく、ハイチやルワンダなどの活動現場でのエピソード、地球市民としての責任、海外援助のあり方などと多岐にわたり、地球の問題に関心を寄せるすべての人々に向けられたものとなっている。
真に持続可能な未来とは何か、医療支援の最前線で国際協力における数々の常識を覆し、奇跡を起こしてきたファーマーからの熱いメッセージに耳を傾けていただきたい。(みつはし・みどり 元クリントン財団日本代表)
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