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センセーションを巻き起こした『種の起源』から12年、ダーウィンは本書で初めて人間の「由来」と「進化」を全面的に扱った。人間は、肉体的形態、心的能力、知的能力、道徳的性質のすべてにおいて「下等動物」と連続性をもっている。そして、お互いに助け合い、守り合う「種」こそが「存続をめぐる争い(生存競争)」を生きのびる。ダーウィンが進化論に託した希望が示されるもう一つの主著、待望されてきた文庫版初の全訳!
本書は、進化論の祖ダーウィンが『種の起源』の12年後に発表したもう一つの主著の長らく待望されてきた文庫版初の全訳である。
1859年に刊行された『種の起源』でダーウィンは、人間は動物の種の一つであり、他の種と同様に「自然淘汰」と「存続をめぐる争い(生存競争)」の結果として生まれた、という仮説を示した。これは人間を神が生み出したものと考えるキリスト教から激しい批判を浴びたものの、やがて多くの支持を得ることになる。ところが、ダーウィンの考えは「人種」に適用され、「劣った人種は優れた人種によって駆逐されるのが必然である」という主張を導いて、「優生学」や「社会ダーウィニズム」と呼ばれる潮流をもたらした。これは、帝国主義の時代を迎えたヨーロッパ列強による植民地支配を正当化する考えにほかならない。
そうした潮流に対して、ダーウィンが『種の起源』では詳細に扱わなかった人間の「由来」と「進化」を全面的に示したのが、本書『人間の由来』である。ダーウィンは、昆虫、魚、鳥、哺乳類、そして人間を取り上げ、それらのあいだに肉体の形だけでなく知的能力や道徳的性質にまで連続性が見出されると説く。そして、お互いに助け合ったり守り合ったりする社会性は「淘汰」によって強化されてきたこと、やさしさや思いやりをそなえた種のほうが「存続をめぐる争い」を越えて生きのびることを示した。つまり、本書はダーウィンの「進化論」が示す希望を描く書でもある。
本書は2部構成になっており、第I部では「人間の進化」が扱われ、人間が「下等な種」に由来することを説いた上で、形態、心的能力、知的能力、道徳的性質が「下等動物」からいかにして進化してきたかが示される。そして、第II部では「性淘汰」という考え方が提示される。性淘汰とは、異性をめぐる競争による進化のことで、例えば実用的な価値はないクジャクの羽などはこれによって説明される。この性淘汰によって、昆虫、魚類、鳥類、哺乳類、人間の順に進化のありようを語ったのが第II部であり、「自然淘汰」ではなく、社会性を帯びたメカニズムによる進化が壮大に描かれる。
上巻には、第I部および第II部のうち鳥類を扱った第11章までを収録。
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