紀行文学としては、芭蕉の『おくの細道』があまりに著名であるが、その前に連歌師の紀行文学の伝統があったことは十分顧みられなくてはならない。宗祇・宗長・紹巴・宗因と辿って来て、その上で『おくの細道』の紀行の新しさが論じられなくてはならない時代に来ている。
この度刊行した、濱千代清氏旧蔵『紹巴冨士見道記』は、濱千代氏は紹巴自筆と考えられていた。現在は郡上市の紅林文庫蔵となっている。忠実な写本という説もあるが、いずれにしても『紹巴冨士見道記』の原型ともいうべき根本的な本文であり、今後は、この本をもとに考察しなければならない。濱千代氏は未紹介の京都女子大学蔵本らとともに校本を作成し、公刊の意志を持っておられたが、本書は校本ではなく、影印・翻刻とともに本文が末流へとたどる間にどのようにして崩れてゆくのかを見るために「本文校合箚記」を添えた。
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