しかし、誰が、どのように、分配してきたのか

しかし、誰が、どのように、分配してきたのか

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出版社
洛北出版
著者名
矢野亮
価格
2,750円(本体2,500円+税)
発行年月
2016年3月
判型
B6
ISBN
9784903127248

地域有力者による「まとめあげ」

 ――――「厄介」な分配問題をめぐって ――――

 

 「自助」「自立」「扶養」などを基調とする日本の福祉においては、人々にお金やモノなどの資源を分配するさい、地域有力者による「まとめあげ」が、戦後も引きつづき行なわれてきた。地域において、お金やモノなどを、誰に、どれだけ分配するかをうまく調整し、実際に差配できたのが、この地域有力者なのである。とりわけ、五五年体制以降の自民党政権は、戦前から続くこの「まとめあげ」を、セーフティネットに見せかけた経済政策として、たえず乱用してきた。

 

 しかし、このような「まとめあげ」は、ほんとうに支援が必要な人に、資源が分配されにくい地域対策であった。戦前がそうであったように、人々は、自分や家族や仲間の生存がおびやかされれば、地域有力者にすがるしかないのである。ふるいにかけられ、「まとめあげ」からこぼれおちてしまった人々は、徹底的に差別されながら、活〔い〕かさず殺さずの困窮を強いられることになる。そして、生活困窮者がとりのこされつづける場所として、「地域なるもの」が形成されていくのである。そのため、「スラム化 → 地域対策 → 再スラム化 → 地域対策」という、悪循環をたどったのだ。

 

 とはいえ、地域有力者による「まとめあげ」に対して、「既得権だ!」といった浅薄な批判を投げつけるだけでは、わたしたちは、この悪循環をすこしも改善できないことも確かである。まずは、とりのこされた地域をめぐる政策や対策の歴史について、わたしたち一人ひとりが、知り、学び、語りあうことから始めるほかないであろう。「まちづくり」のただなかにいる住民たちによって、何が問われ、何が問われなくなってしまったのかを、あらためて問い直す必要があるのだ。

 もし、強権的な政治手法に「厄介な分配」を丸投げする安易さに流されれば、わたしたちは、超高齢社会と住宅老朽化にともない、既視感のある貧困と差別とを、いま以上に経験することになるだろう。

 

   * * *

 

概 要( 詳しい目次は「目次」をご覧ください。)

 

◆序 章 本書で述べていくこと

◆第1章 生存保障システムの変遷

  身分制度の再編成

  部落改善から地方改善へ

  生存保障システムの体制化

  戦後復興と同和政策

◆第2章 ローカルな生存保障

  大阪特有の施策

  大阪住吉における生活状態

◆第3章 乳児死亡率の低減

  地方改良と融和運動

  民間金融のひろがり

  公的貸付制度の展開

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