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20世紀にモダニズムが出現する以前、美術史・建築史を研究することとは、様式を確定し、その変遷がなぜ起こったのかを探り、記述することであった。
特定の時代と地域に固有の様式が生まれるのはなぜか。
その問いに答えるため、ドイツを代表する美術史家ウィルヘルム・ヴォリンガー(1881-1965)は、アロイス・リーグル「芸術意志」という概念を援用した。「芸術意志」とは、特定の時代・地域の様式を創造せしめた固有の情念や衝動のことである。
人類史を見渡し、ヴォリンガーが掴み取った「芸術意志」の二つの祖型は、「抽象」と「感情移入」である。「抽象」には、人間と自然界との敵対的な関係が潜み、「感情移入」には、融和的な関係が潜んでいる。そして、それぞれから生み出された代表的な芸術様式は、エジプトのピラミッドに代表されるような幾何学的・抽象的な造形芸術と古代ギリシャの自然をそのまま写しとったかのような造形芸術である。しかし、人類史を再び鳥瞰したとき、この二つの「芸術意志」では、解明しきれない様式が見出された。中世ヨーロッパに花開いた「ゴシック美術」である。それは、「感情移入」が創造した様式とは言いがたい。しかし、それは幾何学的で抽象的なパターンを繰り返す造形でもなく、「抽象」から生み出されたとも考えにくい。
では、ゴシック美術を創造した「芸術意志」とは何なのか。その問いにヴォリンガーが見事に答えたのが本書である。その記述はきわめて魅力的で説得力に満ちている。1911年に発表された本でありながら、読む者の芸術の見方や考え方を変えてしまうことだろう。
石岡良治氏による、行き届いた解説を得て、名著がここに甦る。
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