デカルト(1596-1650)は730通以上の膨大な往復書簡を残した。それらはラテン語,フランス語,オランダ語で書かれ,わが国で翻訳されているのは30%ほどで,数学や物理学に関わる書簡は割愛されてきた。
本シリーズ全8巻は研究者の使用に耐える翻訳を作成し,簡潔な歴史的,テキスト的な訳注を施して,基礎資料として長く活用されることを期して企画された。
17世紀において書簡の果たす役割は大きく,それは私的な文書であると同時に複数の人に読まれることを意識して書かれた。デカルトの場合,著作ではあまり触れられない心身問題や永遠真理創造説,形而上学の諸問題,道徳論など多くの哲学的問題に立ち入った議論がなされており,書簡を通してデカルト思想の細部が明らかにされる。デカルトは「書簡によって哲学する」,書簡は「知性の実験室」と言われる由縁である。
本巻では1643年7月から1646年初頭までの132通の書簡が扱われる。これらの書簡には,大学組織や行政を巻き込んだ新旧の哲学論争に関わる「ユトレヒト紛争」(1641-43),「フローニンゲン訴訟」の記録,そして『哲学原理』の出版(1644)などに関連した自然学・形而上学の議論から,本巻の半数近くを占めるエリザベト王女との往復書簡での多岐にわたる活発な議論が収録されている。
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