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名匠小津安二郎が残した日本映画きっての名作「晩春」「麦秋」「東京物語」。いずれも「紀子」という名の女性を主人公とするこの「紀子三部作」は、兵士であり映画監督であった小津が、勝つはずだった正義の戦争に負けて、手のひらを返すように変節してしまった国家と国民を前にしたときに産み落とした映画です。言い換えれば、命を懸けてつくした国家と国民に裏切られた男の映画です。小津は、主人公の周吉の「周」の文字を自らの分身のように長く使いましたが、紀子の「紀」は、例外はあるものの、戦後の一時期、1949年から1953年にかけて重点的に使いました。名付け親が名前に思いを託すように、小津安二郎は紀子という名前にある思いを託したのでしょう。その思いとは何であり、「紀子三部作」とはいかなる意味を持った作品群だったのか。「紀子三部作」を通して、小津安二郎の戦後を見つめます。
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