本書はプラトン,アリストテレス,教父・中世哲学の三つの分野で多くの業績を残してきた加藤信朗先生の米寿を記念して,指導を受けた研究者がいま加藤哲学とどう向き合うかを考察した論文集である。
先生の研究には三一構造ともいうべき性格が見られる。
研究領域では,古代哲学と中世哲学および現代の政治哲学が結びついてそれぞれ独自の展開がなされた。
哲学の問題領域としては,知の問題(知識論)と徳の問題(倫理学)が哲学の途(哲学方法論)と有機的に関連づけられ新たな展望を拓いた。
そして学問的実践としては,哲学と文献学が両輪となって共同探究の場が営まれ,それは演習を中心に共同セミナー,カルチャーセンター,海外の研究者の招聘,国際学会でのシンポジウム,また20年以上にわたり自宅でプラトンを講読するマンデー・セミナーなど様々な形で実践されてきた。
先生は既成の枠組みに捕らわれず,「肉体,形,美,われわれ」と言った独自の視点から問題の核心に迫ってきたが,その直観は他の追随を許さないものであった。
第一線の研究者が加藤哲学が放ってきた課題に取り組んで,〈哲学する〉意味を問うた意欲的な試みである。
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