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本書は1000年にわたるビザンツ世界の歴史や文化を系統だって紹介するものではない。むしろ碩学H.-G.ベック(1910-1999)が若い人たちに行なった長年の演習や講義を要約するようにしてまとめたものである。ビザンツの文化や歴史についての通説とは違った踏み込んだ考察は,著者による独自のビザンツ文化論や社会論を彷彿とさせる。
ビザンツについては,宮廷や典礼の豪華で色彩豊かな儀式や,政治的「形而上学」さらには「いつも遁世や来世を考えている」といったイメージがもたれがちだが,著者は日常のビザンツ人の視点や生活感情を重視し,彼らが都会の流儀,機智,文学的遊びを愛していたこと,複雑な国際関係など,多様な現象を紹介する。
ヘレニズムの遺産はいかに継承されたかにはじまり,国制機構,政治的オルトドクシー,文学,神学,修道制,社会論,信仰,歴史に至るまで,多岐にわたる問題群が深い学殖に裏打ちされた重厚な筆致で描かれ,読者は再読,三読を通して新たな鉱脈や意味を発見するに違いない。巻末には本書に有用な古典のテキストの抄訳と,必要な情報を盛り込んだ索引や用語一覧,文献案内が付され,訳者が入れた小見出しともども読者にとって理解の手引きとなろう。
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